複雑な日本の住所表記は、様々な業務における非効率を生み出しています。これを解決するため、建物ごとに固有の番号を付与する「不動産ID」の導入が進められています。本稿では、不動産IDの概要、実証事業の内容、そして今後の展望について解説します。
複雑な住所表記が引き起こす様々な課題
日本の住所表記は、漢字、かな、数字が入り混じり、表記の揺れも多く、業務の効率化や正確性を阻害する要因となっています。郵便住所と登記情報の不一致、全角・半角の混在など、情報共有の際に混乱を招くケースも少なくありません。
特に物流業界では、住所確認作業に膨大な時間と労力が費やされており、災害時の保険金支給手続きの遅延も大きな課題です。また、増加する外国人労働者にとって分かりやすい表記という点でも改善が必要です。これらの課題を解決するために、不動産IDの導入が期待されています。
不動産IDの概要と実証事業
17桁の番号で住所を一意に識別
不動産IDは、建物や部屋ごとに17桁の固有番号を割り当て、住所を明確に識別する仕組みです。
国土交通省は2023年に産官学連携の協議会を設立し、社会実装に向けて積極的に取り組んでいます。過去には登記情報をベースとしたID割り振りを実証実験してきましたが、登記対象外の建物や狭小住宅への対応に課題がありました。
官民で実証実験
そこで、2023年12月からは、日本郵便の郵便受け所在地情報を活用した新たな実証事業が開始されました。約20の自治体と民間企業が参加し、より実用的なデータベースを構築することで、宅配、保険などの様々なビジネスシーンにおける効果検証が行われています。ヤマト運輸をはじめとする物流大手は、ID導入による大幅な業務効率化に期待を寄せています。
2027年度の一般公開に向けて
今後の展望
国土交通省は実証事業の結果を踏まえ、2027年度の不動産ID一般公開を目指しており、17桁よりも短い番号への変更も検討されています。当初は不動産市場の透明化を目的としていた構想でしたが、現在では宅配、防災、行政手続きなど、多様な分野での活用が期待されています。
また、複雑な住所表記は不動産情報の透明性を低下させ、外国人投資家にとっての投資障壁となる可能性も指摘されている。
地図座標データとの連携による自動配送精度の向上、災害時における迅速な情報共有など、今後の更なる展開に注目が集まっています。不動産IDは、日本の住所表記を革新し、様々な社会課題の解決に貢献する大きな可能性を秘めています。