オフィス市場、「回復」の死角と構造変化の深層――2026年「供給の崖」が招く資産の二極化

2025年12月度の最新オフィス市場データを俯瞰すると、表面的な「回復」の裏で、極めてシビアな構造変化が進行していることが読み取れます。ザイマックス総研および三鬼商事から公表されたレポートに基づき、マクロ経済の視点から市場の深層を分析します。

本記事の理解において最も重要となるキーポイントは以下の3点です。

  • 「空室率の低下」と「募集面積率の上昇」の乖離が示唆する、テナント玉突き移動の加速
  • 需給バランスに関わらず賃料が上昇・高止まりする「コストプッシュ型」相場への変質
  • 2026年の新規供給量における地域間の極端な格差(供給の崖と供給の波)

東京市場における「需給のねじれ」と選別の論理

東京23区のオフィス市場は、数字の上では改善基調にあります。ザイマックス総研の調査によれば、2025年12月の空室率は1.55%と前月比で0.02ポイント低下しました。三鬼商事のデータでも東京ビジネス地区の平均空室率は2.22%まで低下しており、これは10ヶ月連続の改善です。

しかし、ここで注目すべきは「変化率」の非対称性です。ザイマックス総研のデータにおいて、空室率が低下しているにもかかわらず、これから空く予定の区画を含めた「募集面積率」は2.60%へと0.02ポイント上昇しています。これは、成約が進む一方で、解約予告(退去の意思表示)も同時に増加していることを示唆しています。

つまり、企業が単に床を増やしているのではなく、より良い条件や立地を求めて移動する「玉突き移転」が活発化しており、その結果として競争力の低いビルからテナントが流出している構図が浮かび上がります。

エリア別の格差も鮮明です。都心5区の中でも、千代田区は0.68%という極めて低い空室率で逼迫している一方、港区は1.52%と最も高く、かつ前月から上昇に転じました。渋谷区(1.09%)や新宿区(1.23%)が低下傾向にある中で、港区の変調は、特定のエリアやビルグレードにおける需給の緩みを示唆している可能性があります。

地方都市に見る「供給ショック」への耐性と賃料の硬直性

地方主要都市に目を向けると、2025年12月は「新規供給」が市場を揺り動かした月となりました。

三鬼商事のレポートによると、大阪ビジネス地区の空室率は3.84%へ、横浜ビジネス地区は7.01%へと、それぞれ前月から上昇しました。これは大阪における「淀屋橋ゲートタワー」、横浜における「BASEGATE横浜関内」といった大規模ビルの竣工による一時的な供給増が主因です。

特筆すべきは、空室率が上昇した局面であっても、平均賃料が下落していない点です。大阪は10ヶ月連続、横浜は5ヶ月連続で賃料が上昇しています。通常、空室が増えれば賃料は下がるのが市場原理ですが、現在の市場は「建築コストの高騰」という構造的な要因により、新規供給ビルの賃料設定を下げることが不可能です。

その結果、新築ビルが高い賃料水準を維持し、それが既存ビルの賃料相場をも牽引する「コストプッシュ型」の賃料上昇が起きています。これは、テナント側から見れば「空室はあるが、安くはない」という状況を意味し、賃料負担能力のある企業とそうでない企業の選別を加速させます。

一方、名古屋ビジネス地区は空室率3.71%と2ヶ月連続で低下しましたが、賃料は前月比でわずかに下落しました。拡張移転の需要はあるものの、コスト意識のシビアさが窺えます。

2026年問題に見る「勝者と敗者」の分岐点

今後の市場構造を決定づけるのは、2026年の新規供給量の劇的な地域差です。

三鬼商事のデータに基づくと、東京ビジネス地区の2026年供給量は約37万坪と、前年比で約5万2千坪減少します。需要が底堅い中で供給が絞られるため、需給はさらに逼迫し、ビルオーナー優位の市場(売り手市場)が強固になるでしょう。

対照的なのが名古屋と横浜です。名古屋は2026年に供給量が前年比約5万6千坪増加するという「供給の波」が押し寄せます。既存ビルからのテナント流出圧力が高まり、スペックの劣るビルは苦境に立たされる可能性があります。
一方で横浜は、2026年の新規供給予定が「ゼロ」です。直近で空室率が急上昇しましたが、来年は供給が途絶えるため、既存の空室は時間をかけて確実に消化されていくでしょう。

大阪もまた、2026年は供給量が前年比約4万坪減少します。足元の空室率上昇は一時的な調整に過ぎず、中期的には需給が引き締まる公算が高いと言えます。

結論:二極化する「資産価値」の行方

以上のデータが示すのは、不動産市場における「全体的な回復」というシナリオの終焉と、「資産ごとの優勝劣敗」の鮮明化です。

ザイマックス総研の規模別データが示す通り、大規模ビル(延床5,000坪以上)の空室率が1.31%であるのに対し、中小規模ビルは1.84%と高止まりしています。建築コスト高により新陳代謝(建て替え)が困難になる中、競争力を失った中小ビルや、需給が緩むエリアの古いオフィスは、賃料を下げても埋まらない「構造的な空室」を抱えるリスクが高まっています。

一方で、コスト転嫁が可能で、かつ供給が絞られるエリアの高スペックビルは、さらなる賃料上昇を享受するでしょう。2025年12月のデータは、この「持てる資産」と「持たざる資産」の格差が、不可逆的な段階に入ったことを静かに告げています。

動画はこちら

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

上部へスクロール