2026年1月8日に発表されたカンテイの最新の不動産市況データ(2025年12月度)は、首都圏および主要都市における戸建住宅市場が、かつてないほどの「選別局面」に突入したことを示唆しています。マクロ経済環境の変化が、住宅市場というミクロな現場において「誰が買えるのか」「どこなら価値が維持されるのか」という問いを残酷なまでに突きつけています。本稿では、公開されたデータに基づき、市場の深層で進行する構造変化を読み解きます。
本記事の理解において最も重要となるキーポイント:
- 「東京23区の異次元化」と周辺とのデカップリング
首都圏全体の価格は上昇基調にあるものの、東京23区の新築戸建(標準規模)が2ヶ月連続で1億円を突破するなど、都心部の資産インフレが突出しています。一方、周辺県や地方中核都市では価格の頭打ちや急落が見られ、エリアによる勝敗が明確化しています。 - 新築価格高騰による「中古市場」の変質
東京都の中古戸建価格が前年同月比で大幅に上昇していますが、これは単なる相場上昇ではなく、市場に流通する物件の「築浅化」が主因です。新築の供給価格が実需の限界を超えつつある中、築浅の中古物件が新築の代替財として選好される構造変化が起きています。 - 「狭小化」でも吸収しきれない実需の限界
土地面積を抑えた「小規模戸建」であっても、東京23区では平均8,600万円台に達し、過去最高値を更新しました。価格抑制のための狭小化という供給側の戦略すら、都心部では高額所得者層以外には届かない水準に達しており、中間層の市場からの締め出しが加速しています。
「1億円の壁」が常態化する東京23区の特異性
最も象徴的なデータは、東京23区における新築木造一戸建て(敷地面積100~300㎡)の平均価格動向です。12月の平均価格は1億642万円となり、2ヶ月連続で1億円の大台を超えました。前年同月比でも+7.5%の上昇を見せており、供給戸数が増加しているにもかかわらず価格が崩れていません。
これは、都心部における戸建住宅が、もはや一般的な勤労者層(実需層)が購入可能な「住宅」という性質から、富裕層や高所得者層向けの「希少資産」へと完全に変質したことを意味します。
一方で、同じ首都圏でも周辺県の動きは異なります。神奈川県は5,000万円台を回復し上昇基調にあるものの、埼玉県はほぼ横ばい、千葉県は上昇したとはいえ夏の水準には届いていません。かつては「都心の価格波及」として周辺県も一律に上昇する傾向がありましたが、現在は都心部(23区・横浜など)の「資産インフレ」と、周辺部の「実需の限界」との間でデカップリング(切り離し)が起きています。
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「小規模化」という調整弁の限界
価格高騰への対抗策として、供給側は敷地面積を削る「小規模化」で総額圧縮を図ってきました。しかし、土地面積50㎡以上100㎡未満の「小規模戸建」市場においても、東京23区の平均価格は8,672万円(前月比+7.0%)と過去最高値を更新しています。
特筆すべきは、東京都下の小規模戸建が5,000万円台を割り込む下落を見せているのに対し、23区内は高騰し続けている点です。これは、都心部においては「狭くしても安くならない(土地の資産価値が強すぎる)」という現象を示しています。
「狭小住宅を選べば都心に住める」という従来のセオリーは崩れつつあり、23区内においては、標準サイズであれ小規模であれ、購入には極めて高い信用力と資金力が求められる市場環境が固定化されました。
中古市場における「築浅化」と価格の歪み
新築市場の価格高騰は、中古市場に直接的な構造変化をもたらしています。12月の東京都の中古一戸建て平均価格は7,460万円と、前年同月比で+19.2%という異常な上昇率を記録しました。また、23区に至っては前月比+28.2%という急騰を見せています。
この数字を額面通り「中古相場の暴騰」と受け取るのは早計です。データをつぶさに見ると、平均築年数が短期化(若返り)していることが分かります。つまり、新築価格が高すぎて手が届かない層が、新築に近い「築浅の中古」に殺到し、また売却側も高値での成約が見込める築浅物件を市場に放出しているということです。
新築と中古の価格差が縮小し、良質な中古物件が新築の代替財として高値で取引される「欧米型」の市場構造へ近づいているとも言えますが、裏を返せば、築古物件の価格形成力が相対的に弱まるリスクも孕んでいます。
地方中核都市に見る「実需の天井」
首都圏以外の動向に目を向けると、市場の「天井感」がより鮮明になります。
近畿圏全体では上昇基調にあるものの、愛知県(中部圏)では新築価格が前月比-3.7%と下落に転じました。特に名古屋市は、直近で高水準だった反動から前月比-9.6%と急落しています。
これは、地域経済や所得水準に裏打ちされない価格上昇は持続しないという、市場の規律が働いた結果と言えます。投資マネーの流入が期待できる東京都心とは異なり、実需がメインとなる地方中核都市においては、金利動向や物価高による購買力低下の影響がダイレクトに価格へ反映されます。名古屋市の急落は、今後、他の地方都市や首都圏郊外エリアで起こりうる調整局面の先行指標となる可能性があります。
結論:市場の分断と今後の展望
2026年の不動産市場は、「二極化」を超えた「多層化」の様相を呈しています。
- 勝者(資産維持エリア): 東京23区および京阪神の超一等地。価格は需給ではなく金融資産的なロジックで動き、高値を維持・更新する。
- 調整局面(実需エリア): 郊外および地方中核都市。購入検討者の所得上限(アフォーダビリティ)に価格が到達し、在庫調整や価格下落圧力が強まる。
- 代替市場(中古・狭小): 新築の受け皿として活況を呈するが、その中でも「立地」と「築年数」による選別が厳しくなる。
不動産価格の上昇は、資産を持つ者には恩恵ですが、これから取得する者にとっては高い参入障壁となります。今後は「エリア(立地)」の選定ミスが、将来的な資産価値の大幅な毀損に直結するリスクが高まります。市場全体が上昇する「満潮」の時代は終わり、立地ごとの実力が価格にシビアに反映される局面に入ったと言えるでしょう。





