富山県が令和8年9月16日に公表した基準日令和8年7月1日現在の地価調査結果は、34年ぶりとなる全用途平均の上昇という節目を迎えた県内不動産市場の構造的な変化を示しています。
キーポイント
- 富山県の全用途平均は上昇したものの、住宅地はマイナス0.2パーセントと下落が続いており、住宅地のプラス転換を果たした石川県や地方圏平均から取り残されている
- 富山市への一極集中と高岡市の全用途平均マイナス1.1パーセントという下落により、県内を支えてきた東西の二大都市による均衡が崩れ、地域間の資産格差が拡大している
- 富山駅周辺の再開発地や一部の幹線道路沿いで急激な上昇が見られる一方、旧市街地や郊外路線、さらに工業地全体の伸びが地方圏平均を下回るなど、極小エリアへの資本集中にとどまっている
Contents
調査の内容
富山県が国土利用計画法施行令に基づいて判定した本調査は、県内15市町村の226地点を対象に、不動産鑑定士の鑑定評価を経て正常価格を算出した公的指標です。基準日は令和8年7月1日であり、同時期における各地域の需給関係や収益性の実勢を反映しています。
県全体の状況
富山県の全用途平均変動率は0.1パーセントとなり、平成4年以来34年ぶりの上昇を記録しました。商業地は0.6パーセントの上昇となり、令和4年から5年連続で上昇幅を広げています。一方で住宅地はマイナス0.2パーセントと、平成10年から29年連続の下落が続いています。下落幅自体は前年のマイナス0.3パーセントから縮小したものの、商業地の上昇が住宅地の下落をわずかに上回ったことで全体数値が押し上げられたに過ぎず、住宅市場全般の底上げには至っていません。
各場所の概要
富山市
富山市は県内の資本投下と地価上昇を独占する中核です。全用途平均変動率は1.2パーセント、商業地は2.1パーセント、住宅地は0.7パーセントの上昇を記録しました。富山駅南口に位置する桜町2丁目は6.0パーセント上昇して1平方メートル当たり673,000円となり県内商業地の最高価格を維持しました。北口の牛島町は9.9パーセント上昇して500,000円に達し県内全用途で最高の上昇率を示しています。神通本町も7.3パーセントの上昇を記録しました。住宅地でも舟橋南町が133,000円で県内住宅地の最高価格を保ち、奥田寿町が3.7パーセント上昇するなど、駅周辺や市内中心部への機能集約が価格を直接押し上げています。
高岡市
高岡市は全用途平均でマイナス1.1パーセント、住宅地でマイナス1.3パーセント、商業地でマイナス0.9パーセントと下落が続いています。工業地は横ばいの0.0パーセントでした。下落率順位表の上位には、伏木古国府のマイナス4.1パーセント、白銀町のマイナス3.1パーセント、片原町のマイナス2.9パーセントなどが並び、旧来の中心街や港湾近隣地での需要減退が目立ちます。新幹線駅周辺の京田地区などで横ばいを維持する地点が見られるものの、市街地全体の更新需要や居住需要が冷え込んでおり、富山市との対照的な推移が続いています。
射水市
射水市は全用途平均が0.3パーセント、住宅地が0.6パーセントとなり、いずれも初めて上昇に転じました。商業地はマイナス0.6パーセントと下落が続いています。住宅地では神楽町で3.6パーセント、二口で3.0パーセント、土合で2.7パーセントの上昇が見られるなど、富山市と高岡市の間に位置し、幹線道路網や鉄道利便性を備えた地域が住宅実需の受け皿として機能しています。
立山町・入善町
立山町は全用途平均が1.3パーセント、住宅地が1.6パーセント、商業地が0.8パーセントの上昇となりました。前沢新町で3.3パーセントの上昇を記録するなど、富山市中心部へのアクセスを前提とした近郊住宅地に資金が流入しています。商業地は前年のマイナス0.7パーセントから上昇に転じましたが、五百石駅前の前沢字浅草がマイナス0.7パーセントと下落した一方、県道沿いの日俣字柿木沢割が2.3パーセント上昇したことによるものであり、郊外路線沿いの需要が数値を押し上げています。
入善町は全用途平均がマイナス0.4パーセント、住宅地がマイナス2.1パーセントと下落基調にあります。しかし商業地は2.2パーセントの上昇を記録しました。なかでも国道沿いの入膳字東寺田は6.0パーセント上昇して1平方メートル当たり30,000円となり、県内全用途の上昇率で第3位に入りました。広域幹線道路沿いにおけるロードサイド需要の強さが局地的な価格上昇を生んでいます。

富山県内市況の傾向分析
富山県内の地価動向は、都市間格差と用途間格差の重層的な拡大を示しています。富山市中心部やその通勤圏である射水市、立山町、あるいは13年連続上昇となった舟橋村などに実需と投下資本が集中する一方、高岡市をはじめとする地方部では空洞化と資産価値の下落が止まりません。 商業地においては、高層オフィスやホテル、複合施設が成立する駅前一等地と、旧来のアーケード商店街や旧市街地との間で利用価値の乖離が広がっています。富山市内でも中央通り1丁目は横ばいの122,000円にとどまり、新富町や神通本町が大きく上昇するのと対照的です。 住宅地でも同様に、インフラが整備され都市機能が維持される中心区域や優良分譲地は価格を維持または上昇させていますが、公共交通から離れた既成市街地や郊外集落では取引需要そのものが減退しています。賃料設定力や売却時の換金性に直結する分断線が急速に引かれています。
北陸3県、その他との比較
3県の比較
石川県は全用途平均で0.7パーセント、住宅地で0.3パーセント、商業地で1.6パーセント上昇しました。福井県は全用途平均でマイナス0.3パーセント、住宅地でマイナス0.4パーセント、商業地でマイナス0.1パーセントです。富山県は全用途平均0.1パーセント、商業地0.6パーセントであり、下落が続く福井県を上回るものの、全用途平均0.7パーセントの石川県には届きません。住宅地においても、プラス圏へ浮上した石川県に対し、富山県はマイナス0.2パーセントと福井県とともに水面下にとどまっており、住宅需要の回復力に課題を抱えています。
県庁所在地の比較
金沢市は全用途平均で2.8パーセント、住宅地で1.9パーセント、商業地で4.6パーセントという極めて高い上昇率を記録しています。北陸の広域中心拠点としての集客力と業務機能の集積を背景に、中心市街地から外延部へ強い上昇圧力が波及しています。 これに対し富山市は、全用途平均が1.2パーセント、商業地が2.1パーセント、住宅地が0.7パーセントの上昇です。商業地の上昇率は福井市の1.5パーセントを上回り、富山駅周辺の都市再開発による価値創出が反映されています。しかし住宅地の上昇率は福井市と同じ0.7パーセントにとどまり、金沢市の1.9パーセントとは大きな開きがあります。 福井市は全用途平均が1.0パーセント、商業地が1.5パーセント、住宅地が0.7パーセントの上昇であり、新幹線延伸に伴う市街地再編による需要回復が見られます。
地方圏平均および全国平均との比較
地方圏全体の平均変動率は、全用途平均が0.4パーセント、住宅地が0.1パーセント、商業地が0.9パーセント、工業地が2.3パーセントの上昇です。
全国平均は全用途平均が1.5パーセント、住宅地が1.0パーセント、商業地が2.9パーセント、工業地が3.3パーセントです。
三大都市圏平均は全用途平均が4.4パーセント、商業地が7.4パーセント、工業地が6.2パーセント、住宅地が3.2パーセントと強い上昇傾向にあります。 地方圏平均との対比において際立つのは、富山県における工業地と住宅地の弱さです。地方圏平均では工業地が2.3パーセント、福井県では2.0パーセントの高い上昇を示しているのに対し、富山県の工業地は0.5パーセントにとどまり1%以上の差があります。製造業基盤を持つ富山県でありながら、新た産業用地の拡張需要や物流拠点需要が地価上昇へと波及していません。住宅地についても、地方圏平均がプラス0.1パーセント、北陸平均が0.0パーセントの横ばいであるのに対し、富山県はマイナス0.2パーセントと取り残されています。
都市構造の観点による比較
経済地理学的な観点から見ると、石川県は金沢市という単一の強力な極が全体を牽引する単核集中型の構造です。一方の富山県は、かつて富山市と高岡市が東西で均衡を保ち、その中間に射水市や砺波市などの地方都市群が連なる多核共存型の都市構造を有していました。 しかし今回の地価動向は、この多核構造の機能不全を物語っています。高岡市の全用途平均がマイナス1.1パーセント、住宅地がマイナス1.3パーセント、商業地がマイナス0.9パーセントと下落を続ける一方で、富山市が全用途1.2パーセントの上昇となり、両者の均衡は崩れました。高岡都市圏に属する氷見市がマイナス1.5パーセント、小矢部市がマイナス1.0パーセントと落ち込む反面、富山市に近接する舟橋村や立山町、射水市が上昇している事実は、多核分散型の平野部全体が富山市への単極依存構造へと移行しつつあることを示しています。
ここでpythonによるグラフ2を挿入してください。グラフ2では富山県、石川県、福井県、地方圏平均、全国平均の用途別変動率を比較し、富山県における住宅地と工業地の相対的な遅れを可視化します。
総括
富山県の地価調査結果は、34年ぶりとなる全用途上昇という表面的な回復の陰で、急激に進む空間的な選別を証明しています。中心都市である富山市の再開発エリアや交通利便性の高い特定近郊のみに人口と資本が集まり、多核を形成していた周辺都市や旧市街地は需要減退と価格下落の圧力にさらされています。地方圏平均や近隣県との比較においても、住宅地と工業地の回復力が劣後しており、立地条件と機能性を見誤った不動産運営は収益性の維持が困難になる局面を迎えています。





