本記事の理解において重要となる3つのキーポイント
- 「価格と流動性の乖離」の鮮明化
首都圏全体で取引件数は爆発的に増加しているが、価格上昇は東京都区部など一部の「都心・好立地」に限定され、周辺エリアでは成約単価の下落が始まっている。 - マンション価格の高騰による「戸建への需要シフト」
中古マンションの㎡単価がバブル期(1990年)の水準に肉薄し、価格許容度の限界を迎えた層が、割安感のある中古戸建市場へ雪崩を打って流入している。 - 在庫構造に見る「資産性の選別」
マンション在庫は減少傾向で売り手優位が続く一方、戸建在庫は増加基調にある。エリアと物件種別による「売れる資産」と「滞留する資産」の二極化が構造的に定着しつつある。
過熱する取引現場と「2つの天井」
2025年12月のREINSの首都圏不動産流通市場のデータは、一見すると極めて活況に見えます。中古マンションの成約件数は前年同月比25.9%増、中古戸建住宅に至っては59.0%増という異例の伸びを記録しました。双方が14ヶ月連続で前年を上回っており、市場には厚い需要層が滞留していることが確認できます。
しかし、この数字を「不動産ブームの再来」と単純に解釈するのは危険です。ここには明確な構造変化、すなわち「価格の天井」と「購買力の天井」が作用しています。
特筆すべきは中古マンションの㎡単価です。首都圏平均で85.08万円/㎡(前年比+9.0%)に達し、2020年5月から68ヶ月連続の上昇を記録しました。レポート内でも言及されている通り、これは1990年9月の水準に近づいています。この歴史的な高値圏への突入が、市場に強いストレスを与えています。一方で、専有面積は前年比マイナス0.7%と縮小しており、グロス価格を抑えるために「より狭い部屋」へと需要がシフトせざるを得ない状況が読み取れます。
首都圏マンション市場、新築・中古で鮮明になる「二極化」の様相
戸建市場への地殻変動と価格調整メカニズム
マンション価格の高騰は、市場内でのドラスティックな「資産代替」を引き起こしています。それが、中古戸建住宅における成約件数の爆発的な増加(+59.0%)です。
ここで注目すべきは、戸建の成約価格が前年同月比でマイナス1.0%と下落に転じた点です。3ヶ月ぶりの下落であり、在庫価格(売り出し価格)が4.4%上昇しているのとは対照的です。これは、売り手の希望価格に対して、買い手がついてこれなくなっていることを示唆しています。
つまり、マンション価格についていけなくなった購入層が戸建市場へ流入しているものの、彼らの予算は青天井ではありません。結果として、価格調整が入った物件や、相対的に安価な物件のみが大量に成約し、全体の平均価格を押し下げている構造が見て取れます。これは「活況」というよりも、高コスト環境下における「逃避需要」と捉えるべき現象です。
エリア別に見る「勝者」と「敗者」の分岐点
本データが示す最も残酷な現実は、エリアによる資産価値の二極化です。首都圏全体が上昇基調にあるわけではなく、明確な断絶が発生しています。
東京都区部(都心エリア)
中古マンションの㎡単価は前年比15.1%増、戸建価格も13.5%増と、依然として強い上昇圧力を維持しています。高値であっても成約に至る「真の需要」が存在し、資産価値の保全性が機能しています。
周辺エリア(埼玉県・千葉県・神奈川県他)
対照的に、周辺県では調整色が強まっています。
- 埼玉県: マンション単価 -4.2%、戸建価格 -1.5%
- 千葉県: 戸建価格 -8.2%
- 神奈川県他: マンション単価 -1.3%、戸建価格 -8.5%
これらのエリアでは、成約件数(流動性)自体は大幅に増加しています。例えば、埼玉県の戸建件数は+84.2%です。しかし、価格は下落しています。これは、「価格を下げなければ売れない」市場環境へと構造が変化したことを意味します。都心部は「高くても売れる」市場であるのに対し、周辺部は「安さで流動性を確保する」市場へと性質を変えました。この分岐点は、今後の資産価値維持において決定的な意味を持ちます。
在庫動向が示唆する将来の流動性リスク
需給バランスの先行指標となる在庫データからも、市場の歪みが読み取れます。
中古マンションの在庫件数は5ヶ月連続で減少(-3.6%)しており、依然として売り手優位の需給逼迫が続いています。特に都区部では、新規の供給が成約スピードに追いついていない可能性があります。
一方、中古戸建の在庫は成約が急増しているにもかかわらず、前年比+1.2%と増加傾向にあります。これは、市場に滞留している「売れ残り在庫」の存在と、新規売り出しの増加を示唆しています。戸建市場、特に郊外エリアにおいては、今後さらに在庫が積み上がり、価格競争圧力が強まるリスクを孕んでいます。
総括―「立地」と「コスト」の再定義
2025年12月の市場動向は、不動産市場における「全般的な上昇局面」の終焉と、「選別的な市場」への完全な移行を示しています。
インフレや建築コスト高騰を背景に、新築供給が絞られる中で中古市場への依存度は高まり続けています。しかし、買い手の購買力は限界に達しており、都心一等地の物件以外では、価格調整なしには流動性を確保できないフェーズに入りました。
これからの市場において、資産価値を維持できるのは「需要が枯渇しない都心部」か、あるいは「実需層の手が届く価格帯に調整された郊外物件」に限られます。中途半端な価格帯の郊外物件や、競争力のない古家は、在庫として積み上がるリスクが高まっており、不動産保有者および事業者は、保有資産のエリア特性を見極め、出口戦略を再考すべきタイミングに来ていると言えます。





